
名付けの呪術/真・女神転生III(2)
「名前を付けろ」と言う。
ゲーム序盤というか始めて即効で命じられるのが上のようなことである。
今や大抵のRPGやギャルゲに引率されるノベルゲームでは、主人公の名前をプレイヤ自らが決められるものが多い。
真・女神転生IIIもそうなのだが、他の作品とちょいとばかし勝手が違って困った覚えがある。
名前を決めるにしろ、デフォルトの名前があるのが普通である。
その上で、プレイヤはそのままデフォの名前でいくのか、好きな名前に変えるのか、自分で決めることが出来るわけだ。
しかし、真・女神転生IIIの場合、デフォルトの名前がそもそもないのである。姓と名が空欄の入力画面が現われて、さあ入力せよ、とくる。
困った。非常に困った。
名付けというのは非常に厄介だ。
“名は体を表す”とはいつかの誰かが言った言葉である。
名前を付ける、その名で呼ぶという行為は、自分にとってのその相手の存在を特定し、定義することだ。
副作用として、定義以上のものには見なくするが、それは端的に中身を表す最も簡単な解説文となる。
これが赤ん坊で、生が白紙の存在だったなら、○○のように育って欲しいとかいう願望を込めて名前を付けるところだろう。
しかし、真・女神転生IIIの主人公は見た目十代後半の青年である。
彼には、十数年生きてきただけの知人がいて、生きてきただけの繋がりを世界に持っているはずである。
そんな彼に名前を付ける術を僕は知らない。いや、誰だって知らないはずだ。
ここで僕が取るべき行動を考えたとき浮かんだのが、次の二つである。
1.既存の固有名詞を持ち出して無難に問題に片を付ける。
2.自分の名前を付けて、思いっきり自己投影してみる。
僕は2を選んだ。ゲームが、主人公が一切喋らないドラクエタイプであることが、暗に2を選べと言っている気がしたからである。
嘘です。既存で良い名前を思いつけなかっただけです。
というわけで、主人公「一ノ瀬 雛姫」の誕生である。
名前を付け、プレイ早々、主人公の知人が「よう、雛姫」とか呼んだのを見て、激しい違和感を感じたのは内緒である。
あぁ、名前と世界観がミスマッチ過ぎるぞこれ。